鯛車(たいぐるま)
突然ですが皆さんは「鯛車」ってご存知でしょうか?
鯛車は新潟市の巻地区に江戸時代から伝わる竹と和紙でできた郷土玩具です。その名のとおり魚の鯛の形をしていて、昔はお盆の夕暮れ時に子どもたちが鯛車の中にろうそくであかりを灯して、砂利道をゴロゴロと引いて歩いていたそうです。
なんと幻想的で風情のある光景でしょう!
その後、鯛車職人がいなくなったことなどからその伝統は一時途絶えてしまいましたが、5年前から市民有志が立ち上がり「鯛車復活プロジェクト」として、鯛車の復活と普及活動を行っています。
7月から開催される新潟市の「水と土の芸術祭」でも、なんとこの鯛車が大活躍の予感です。
アートというと、新しいものを創り出すイメージが強いですが、「水と土の芸術祭」はそれだけではありません。もともと新潟に存在していた「宝物」、しかし今までその価値に気づかずに光を当てられてこなかったもの、または時代の流れとともにその価値が見失われ人々記憶から忘れ去られようとしているもの、そんな数々の「宝物」にアートの力でスポットを当ててもう一度輝かせようよ、というものなのです。
巻地区の家庭の納戸に仕舞い込まれ不遇な時代(!?)を過ごしてきた鯛車たちも、この「水と土の芸術祭」によって何十年ぶりかに表舞台に引っ張り出され、大いにスポットを当てられる予定です。
もともと赤ら顔の鯛車たちが、全国のたくさんの人から注目されて、ポッと頬を赤らめながら街を泳ぐ姿が、今から目に浮かぶようです。
そして鯛車復活の兆しは、東京にも見え始めています。先日、表参道のネスパスでも鯛車制作教室が開かれると聞きつけ、早速見学に行ってきました。都内各地から参加者が集まり、「鯛車復活プロジ
ェクト」の若きリーダー・野口基幸さんの指導のもと、鯛車制作に挑戦です!
まずは竹の棒で鯛の骨格作りです。特に顔の部分はそれで人相(魚相)が決まってしまうので、とっても重要な部分。わが子をイケメンにするべく、みなさん納得がいくまで何度も作りなおしています。
そして徐々に鯛の姿かたちが出来始めてくると、まるで食べ終わった焼き魚の残骸のような姿に(^^ゞ
まだ骨格だけですが、それぞれ自分の鯛車に愛着が湧いてくるものです。おそらく名前を書かずに置いていても、きっとわが子を見つけ出すことができるでしょう!
参加者からお話を伺うと、旧巻町出身の方が結構いらっしゃいました。年配の男性は、やはり子どもの頃に鯛車を引いて遊んでいたそうです。やはり巻町出身の若い女性は、お父さんが旧巻町で鯛車制
作教室に参加したことがあって楽しそうだったので自分も参加したとのこと。親子2代に渡って鯛車の魅力がしっかりと引き継がれているなぁと嬉しくなるエピソードでした。
こうして老若男女の垣根を越えた人の輪が広がり、その人の数だけ鯛車が一匹、また一匹と全国に泳ぎ出していってくれたら、すてきなことだと思います。
お母さんと一緒に参加していた子どもが、退屈して見本の完成品をゴロゴロと引いて遊び始めました。
旧巻町出身だと言っていた年配の方は、昔見た光景と重なり懐かしい気持ちで眺めていたのではないでしょうか。私も近い将来こんな光景がまた新潟で見られる日がやって来ることを祈りつつ・・・鯛のお尻に魅力的な丸みを出そうと必死で竹をしならせる男性参加者たちを見守るのでした。